(2)食品ロスから生まれた豚肉づくり「エコフィード」【前編】
2026.04.30
(株)KREAM観音池ポーク取材チーム
食品廃棄物と畜産業の現状
私たちが普段口にしている食品の中には、まだ食べられるにもかかわらず廃棄されているものが多くあります。日本では年間数百万トン規模の食品廃棄物が発生しており、その処理は大きな環境課題となっています。コンビニエンスストアの消費期限切れ商品や食品工場の調理残さ、外食産業の食べ残しなど、本来まだ利用可能な食品が大量に廃棄されているのが現状です。
一方、畜産業界では飼料価格の高騰により経営環境が厳しさを増しています。特に養豚では、飼料費が生産コストの約4〜6割を占めており、経営に直結する重要な課題となっています。また、日本の畜産は飼料の多くを輸入に依存しているため、国際情勢や為替変動の影響を受けやすい構造にあります。
こうした二つの社会課題を同時に解決する技術として、2005年よりセブンイレブン、宮崎大学、宮崎県、観音池ポークによる共同研究が開始されました。それが「エコフィード」を活用した豚肉生産技術です。

食品工場から運び込まれたパンの耳 ※写真はイメージです
パンの耳でエサを作る
肉の美味しさを決める重要な要素の一つが脂肪の質です。筋肉内に細かく脂肪が入り込んだ肉は、旨味と甘みが増し、やわらかな食感を生み出します。いわゆるサシ(脂肪交雑)が入った状態です。
このような肉質を実現する手法として注目されたのが「エコフィード」です。
エコフィードとは、食品工場などで発生するパン屑や麺類などの食品残さを乾燥加工したリサイクル飼料のことです。これまで廃棄されていた資源を有効活用することで、環境負荷の軽減と飼料コストの削減を同時に実現できます。
本研究で用いられたエコフィードは、パン屑を主原料とし、専用工場で減圧乾燥処理されたものです。衛生的で保存性にも優れ、安定した飼料として利用可能です。また、価格は1キロあたり約20円と、市販の配合飼料と比較して大幅に低コストであることも特徴です。

エコフィード。パン屑や麺類などの食品残さを乾燥加工して作られる
アミノ酸のアンバランスが肉質を作る
少し専門的な内容になりますが、ここが今回の研究の大きなポイントです。研究チームが注目したのは、エコフィードのアミノ酸組成でした。
パン主体のエコフィードは、必須アミノ酸の一つであるリジン(第一制限アミノ酸)の含有量が不足しており、必要量の約40%程度しか含まれていません。通常、このような栄養バランスの偏りは成長の低下要因となります。
しかし、このアミノ酸バランスの変化が、豚の体内での脂質代謝に影響を与え、筋肉内への脂肪蓄積を促進する可能性が示唆されました。
宮崎県畜産試験場では、エコフィードの配合割合を変えた比較試験が行われました。その結果、配合割合が高まるにつれて発育はやや遅くなる一方で、筋肉内脂肪が増加し、肉質に変化が見られることが確認されました。
さらに農家での実証試験では、豚肉の筋肉内脂肪含量が4.7〜6.9%まで上昇する結果が得られました。これは高級ブランド豚として知られるTOKYO-X(約5%)と同等、あるいはそれを上回る水準であり、エコフィードの活用によって肉質に大きな変化がもたらされることが確認されています。
また、リジンを添加するとこの効果が弱まることも確認されており、アミノ酸バランスが脂肪蓄積に関与していることが明らかになっています。

エコフィード配合の飼料で作られた、観音池ポーク。美味しさの構成要素である脂肪交雑(サシ)を化学的に分析した
消費者の評価
消費者を対象とした試食調査(486名)では、多くの参加者が「美味しい」と評価しました。特に「やわらかい」、「臭みがない」、「脂身が甘い」といった点が高く評価されています。 また、食品廃棄物を飼料として再利用する取り組みについても、約97%の回答者が「良いイメージを持つ」と回答しており、環境意識の高まりとともに支持される技術であることが確認されました。
エコフィードは、単に肉質を変える技術にとどまりません。この仕組みは、環境問題や畜産の未来にも深く関わっています。後編では、その価値と現在の取り組みについて紹介します。

図1:食物残さがリサイクル飼料(エコフィード)として再生される流れ(九州食品工場リサイクル事業協同組合のwebサイトより引用・改編)
参考文献:『銘柄豚肉生産のための食品残さ飼料(エコフィード)活用技術の開発』
有限会社とんとん百姓村(現・観音池ポーク)、宮崎大学農学部、宮崎県畜産試験場川南支場、宮崎県北諸県農業改良普及センター/代表研究者:宮崎大学農学部 入江正和,2007